"なぜ台湾三番目の放送局が台北でも台南でもなく台中に置かれたのか:JFCK開局の舞台を歩く"
1935年5月11日、台湾三番目のラジオ放送局JFCKが台中で開局した。台北でも台南でもなく台中が選ばれた背景には、中部財界人による数年越しの誘致運動がある。旧建物は今も電台街に残り、辰野式の台中市役所と合わせた半日散策ルートが作れる。

台中は、台湾で三番目にラジオの声が流れた街だ。1935年5月11日、コールサイン「JFCK」を持つ台中放送局が開局した。台北(1928年)、台南(1932年)に続く三番目の放送局が、なぜ高雄でも基隆でもなく台中に置かれたのか——その答えを追うと、当時の中部経済の熱量と、ひとつの市民運動の記録が見えてくる。
台北を出し抜いた、台中の誘致運動
1920年代後半、台湾総督府がラジオ放送局の設置を検討し始めた頃、最有力候補は台北だった。当時の植民地行政は台北を中心に動いており、放送インフラも首都集中が自然な選択肢に見えた。
しかし台中の財界人と市民はそれを黙って見ていなかった。台中州の商工業者を中心とした誘致委員会が組織され、総督府に対して繰り返し請願書を提出した。彼らの論拠は明快だった——1930年代の台中州は、製糖・繊維・煙草産業の集積地として台湾中部の経済を牽引しており、農村部も含めた広大な聴取エリアをカバーするには、台北よりも台中のほうが地理的に適しているという主張だった。
数年にわたる交渉の末、総督府は中部への開局を認めた。
開局の20日前、1935年4月21日——台中・新竹を中心にマグニチュード7.1の大地震が発生した。死者3,000人を超えた台湾史上最大の地震だった。台中放送局は、被災地の土煙がまだ収まらない台中で、5月11日に初めて電波を出した。「農村部への情報インフラ」を掲げて勝ち取った開局が、被災地の復興が始まったばかりの大地で幕を開けた。
旧放送局の建物:ヨーロッパの城に見える、不思議な外観
旧台中放送局の建物は現在も残っている。住所は台中市中区・電台街1号。電台街という通りに建つのはここ一棟だけで、この住所はこの建物のためだけに存在している。台中公園から徒歩10分ほど。マップで「台中放送局」と直接検索するのが確実。
建物に近づいて最初に感じるのは「これ、日本の建物じゃない」という違和感だ。大きな半円アーチの入口、細長い縦窓、城壁のような凹凸のある胸壁(パラペット)、中央の円筒形の塔——外観はヨーロッパの小さな城に似ている。ロマネスク様式とゴシック様式が混じり合った折衷様式の建築として分類されており、同じ日本統治時代の木造神社や和風建築とは全く別の系統だ。屋根は木製のトラス構造で組まれており、1999年の921大地震で損傷を受けた後に修復されている。
内部は放送文物館として公開されており、入場は無料。玄関の床には日治時代からそのままの花タイルが残っており、室内はテラゾー仕上げの床が続く。一階約150坪の空間に68か所の窓——円アーチ型、長方型、さまざまな形が壁を埋め尽くしており、日差しが入る時間帯には内部が自然光で満たされる。
展示の目玉は1940年代のワイヤーレコーダーで、スタッフがいる時間帯には当時の音楽を再生してもらえることがある。「迴聲・調瓶(声の瓶詰め)」という体験コーナーでは、自分の声を小瓶に録音して持ち帰れる。展示パネルは中国語のみで、日本語ガイドや多言語QRコードは設置されていない。この記事を読んだ上で訪問すると、建物の見え方が変わる。
台中市役所:東京駅の「親戚」でランチを食べる
旧放送局から徒歩10分ほどで、もうひとつの日本統治時代建築に着く。台中市役所(1911年竣工)だ。
設計者は辰野金吾の弟子。東京駅(1914年)とほぼ同時代に建てられた辰野式西洋折衷建築で、赤レンガと白い石帯のパターンを見ると「あ、東京駅の親戚だ」と思う日本人が多い。実際、辰野金吾の設計事務所が台湾でいくつもの官庁建築を手がけており、同じ様式の建物が台湾中部に点在している。
現在は「台中文資館」として一般公開されており、1階に「Narratore」というイタリアンレストランが入っている。築100年超の元官庁建築のなかでパスタを食べるというのは、なかなか他の都市では経験できない。ランチはひとりTWD 350〜500(約1,600〜2,300円)が目安。食事をしない場合も見学は無料。週末は地元の人でにぎわうが、平日の午前中は比較的空いている。
半日散策ルートと実用情報
台中駅を起点に、日本統治時代の建築を3〜4か所まわる半日ルートが組める。合計歩行距離は約2km、所要時間は2〜3時間。
推奨ルート(徒歩順)
1. 台中公園・湖心亭(1908年)— 台中駅から徒歩15分。台湾でもっとも保存状態の良い湖心亭のひとつ。朝の光のなかで見るのがいい。 2. 旧台中放送局 JFCK(電台街1号)— 湖心亭から徒歩10分。外観と内部展示を合わせて30〜45分。 3. 台中市役所/台中文資館(自由路一段)— さらに徒歩5〜10分。ここでランチがおすすめ。 4. 台中州庁(1913年竣工)— 同エリア。バロック古典様式の大型建築だが現役の行政施設のため外観見学のみ。
アクセス: 台中駅(TRA)から台中公園まで徒歩約15分。台中駅前の中山路をまっすぐ北へ。タクシーで5分、TWD 100前後(約450円)。
開館情報: 入場無料。開館時間10:00〜18:00、月曜定休。不定期で臨時休館あり。訪問前に台中市文化局の公式SNSを確認するのが確実。


